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順送りの大切さ
 「ねえ、おかーさん」とケンの声。「なーに、ケンちゃん?」と尋ねたら、こう言われました。

――あのさー、ボク、天国のオトモダチにからかわれちゃった。「オマエんちのおかーさん、泣いてばっか。弱虫だな〜あ」って。知ってる、おかーさん? 泣いてばかりいると、すご〜くみっともない顔になっちゃうらしいよ。ボク、ヤだな、そんなおかーさん…。

 ケンがいない最初の春です。あと1回はいっしょの春をすごせる! そう信じていたのが災いしているのでしょう。どうしても、涙することが多くなって困ります。

 そんな時、いつだって、ケンが話しかけてくれる、というわけです。

「あのね、ケンちゃん」と、私も語りかけます。

――ケンちゃんに会いたくてたまらないけど、おかーさんはまだ、そっちへ行くことができないのよ。トーキョーのおじーちゃん、おばーちゃんを見送ってからじゃないとダメなの。

――わかってるさー、そんなこと。

 どこか、得意げに答えるケン。

――今、おかーさんに来られたって、まだ、早すぎちゃう。最初は、おじーちゃん、おばーちゃんにしてほしいから、そのためのお家、作ってるとこだよ。おかーさんはね、もっともっと、あとに来てね。おかーさんが欲しがっていた、大きなお馬さんも用意しておくから。

 世の中には、「順送り」というのがあって、飼い主よりペット、子供より親が先に旅立つほうが好ましい、とされています。そのほうが「幸せ」とも言えるのでしょうか?

 ケンを失った私としては、正直なところ、「不幸」すら感じたものです。でも、私がケンよりも先に逝ったら、どうなったことか。「順送り」ならざる悲劇が生じたかもしれません。

 年老いた父や母を、キチンと見送ることが、なによりも大切。改めて、ケンに教えられた思いです。



日伊、掃除魂の大差
 嫌い、というわけでもないながら、苦手なのが掃除。どうしても、他のイタリア家庭のようにキレイな部屋となりません。

 けっこうリキを入れて励んでも、ダメなんですよー。いろいろな洗剤も試したんですけどね〜え。掃除するほどキタなくなる、という気すらしてきます。

 ええ、ええ、わかってはいるのです。イタリア人が言うように、「汚れる前に掃除する」を実践したらいいわけです。でも、私のメンタリティ、かつ、生活習慣は、まだまだ日本人のまま、掃除=汚れたらする、のスピリット(?)しか持ちあわせていません。

 何回か、トライはしてみました。そりゃ、キレイになりましたよ。なんたって、汚れてもいないうちからの掃除ですから。でも、(私にしたら)あまりにもピカピカに輝き上がった室内に、違和感が発生。「こういうのって、人工的だなー」と感じました。で、元の木阿弥。すぐさま、「イタリアでいちばん掃除の行き届かない家」へと戻ったのでした。

 いままでは、それでよかったんですよね。来客に、こう告げることができたから。

――なにしろ、犬がいるもので…。

 ケンが旅立ってからの我が家は、ワンコの毛と無縁。ケンの足跡だってありません。さしたる汚れもないため、1週間、10日…と放っておいたら、ヒェ〜イ、やはり汚い。久々にホンキで掃除に取り組んだ私です。

 すると、どうでしょう。ケンがいた時と違って、すぐクリーンになりました。なんというラクチンさ!

 でも、それは、うれしさより、胸がキューンとなるできごとだと痛感した私。いくら部屋中がいつも汚れていようと、ケンのいる毎日のほうがうれしいに決まっています。

 アッという間にキレイになった部屋をながめ、またもやケンとすごした日々をなつかしんでいます。

 それにしても、ワンコを家で飼っているのに、いつだってキレイ、キレイなイタリア家庭、というのはなぜ? うーん、やっぱり、掃除魂に大差あり、ということなのでしょう。



灯油のハネ上がりにひとこと
 隣家のブルーノと、庭ごしのおしゃべり。

 私 車のガソリン代、またハネあがったわね。イタリアは、EUでいちばんの灯油高になっちゃって…。世界一の高さ、ってことよね。

 ブルーノ 知ってるかい? 半分以上が税金なんだよ。政財界のヤツらがせしめたり、経済難の南伊のうめあわせに回されるってわけさ。ひどいもんだよ、まったく!

 私 日本もねー、似たりよったりのズサンさよ。政治家はウソつきばかり。大ドロボーそのものなんだから。

 ブルーノ でも、日本はマシさ。大臣だって、すぐ責任をとって辞めるだろう。ハラキリ(つまり、自殺)するケースもあるそうじゃないか。イタリアの政治家たちも見習って欲しいもんだよ。

 あれっ? どこかで聞いた話しみたい。そうだ! ベッペ・グリッロ(社会批判で大人気を集め、今、いちばん国民の支持を受けていると言われるコメディアン)が、ブログの中で訴えていたっけ。

 今や、グローバルな注目すらも集めるベッペさまは、なんと、日本語でのブログまで始めたのでございます。ごくごくカタコトのニホンゴで、こんなふうにおっしゃっておりました。

――イタリアノダイジン ニホンヘアゲマス。ジサツ シテホシイデス。

 実にたどたどしい日本語で訴えたせいか、妙なインパクトがありましたね〜え。思わず、心の中で叫んだ私です。「いりませ〜ん! それよりベッペさまみたいなヒトが、欲しいで〜す!!」

 さーて、灯油の高騰。飛行機の燃料チャージまで、4月からグーンとアップしてしまいました。イタリア←→日本のフライトだと、プラス100ユーロの追加料金。つまり、航空券の他に、約6万円もの燃料チャージとなったのです。信じられないっ!

 かつては、燃料チャージの加算など、いっさいなかったのに…。イラク戦争開始後ではないでしょうか、この別途料金制って。ウ〜〜〜ッ、やっぱり、ブッシュのせいだ! 政治家が悪い。大企業もヤーさんしてる。そう感じざるをえません。



不死鳥ストーリー
 枯れきってはいても、今のところ、朽ち果ててはいない両親です。時には、「おっ、すごい! これは、もう、不死鳥そのもの」と感じることすらあります。

 つまり、そのー、なんですね〜え。不死鳥のごとく、さいごにはばたく、と。

 80すぎた親がいるということは、いったいどういうことか。時々、考えこんだりする私です。父なんか、もはや86歳ですからね。ヒェ〜イ、四捨五入したら90じゃん。とビックリ!
 ハンパな年寄りではございません。何年か前までは、イタリア人によく言われたものです。

――ご両親、いくつ? 80になるところ? まだまだ若い、若い。

 さすがに、最近はありえないセリフとなりました。「うーん、いい歳だね」と返ってきます。

 長寿社会とはいえ、男性の86は、平均年齢をこえています。パーフェクトな健康体ではないものの、なんとか寝込まずにすごしてくれています。

 困るのが、高齢への自覚欠如がみられることです。なぜか、「伊達の薄着」ですごしたがります。「ヘン。まだまだ、このくらいの薄着でダイジョーブ」と誇示したい様子。そんなの、決して自慢になどならないのに…。

 この冬の低温さ、何回もの寒の戻りどきもしかり。私が送った薄手のウールのプルオーバーも身につけないまま、と母が嘆くこと、嘆くこと。「それでいて、寒い、寒いなんて言っているのよ」と、困り果てていたものです。

――じゃ、お父さんに伝えて。プルオーバーは叔父さんに回す、と。

 約10分後、母から電話が入りました。「やったわ、やった」とうれしそう。こう告げたものでした。

――言われた通りに伝えたら、「それはダメだ」ですって。「明日着るから」ってことよ。今、タンスから出しておいたわ。成功ね。作戦、大成功!

 なんか、けっこう疲れる父母のライフパターン、という気がしないではなし。ね、不死鳥ぶりっこ、していません?



「初めて」の春に想う
 「おかえりなさ〜い、おかーさ〜ん!」の出迎えなしの帰宅は、これが初めて。どんなことにも「初めて」はつきものながら、やはり淋しく辛いものです。

 ケンが旅立ってから、しばし、再帰国をためらっていた私。なぜでしょう? むしろ、心残りない日本行きができるはずなのに…。きっと、待っていてくれるケンがいたからこその帰国だったんだなー、と気づきました。

 ケンのために、不在どきのエサの用意をするのはラクじゃなし。なにしろ、全食を作って冷凍していましたから。夫の分は、どうしたって、ほんの一部しか手作りできませんでした。

 日本行き直前、せっせとエサ作りに励む私。ケンがのぞきこみ、こんな表情で私を見つめたものでした。
――わー。おかーさん、またお出かけなの〜お? トーキョーのおじーちゃん、おばーちゃんによろしくね。

 ずいぶんと前、こちらにやってきた私の両親のこと、いつも覚えているようなケンでした。特に、動物好きジージの父に、メチャかわいがりされたケン。たくさんのオヤツをもらい、おなかをこわしたりもしたものです。

 「ケンちゃん、ただいま」。心の中で呟いた私。前回の帰国どき(昨年12月上旬)は、いつもと違い、シッポを振る元気さえなかったケンでした。そして、逝ってしまったのが、12月16日。でも、こう思うようにしています。

 シッポを振らなくても、また、姿はなくても、ケンはいつだって私を待っていてくれる、と。

 ケンの眠っている庭に目をやると、年末に植えたサクランボの木に芽ばえを発見! わー、ケンちゃん、よかったね。もうすぐ、小さな白い花が咲くわよ。そして、実がつくでしょう。本当は、桜の木にしたかったけど、果物好きだったケン。サクランボでよかったのかもしれませんね。

 三寒四温の初春の日。ケンのいない初めての春だけど、16回もの春をいっしょにすごせたことに感謝しましょう。



半沢家がパニック、のできごと
 初春の陽ざしも美しいある日、ドドドーッと疲れるひとときが生じました。
 実家より電話があり、以下の会話となったのです。

母 今、○○さんからイタリア土産をいただいたのよ。きのう帰国したばかりだというのに、申しわけなくて…。

私 ホントよね〜え。なんてごていねいなんでしょ。で。なにをいただいたの?

母 それがね〜え、お父さんが受け取って。私はちょうど電話中で、○○さんと話せなかったから、ちょうだいしたもののことも聞いてないのよ。今しがたのことだから。

私 じゃ、開けてみて、すぐに。私からもお礼のFAX送りたいので。

母 ちょっと待って…。あら、ダメだわ。ていねいに包装してるのよ。

 ということで、しばし電話をストップ。数分後、再び再開となったのでした。

私 なんだったの、いただきもの?

母 ひとつは高級そうな革のおサイフ。もうひとつのほうがね〜え、よくわからないのよ。

私 そんなこと言ったって…。

母 瓶入りで、茶色なの。ハチミツかしら?

私 ラベルには、なんて表記されてるの?

母 そう聞かれたって、イタリア語みたいだもの。わからないわよ。

私 じゃ、スペルを教えて、スペルを!

母 ちょっと待ってね。(父に向かい、「お父さん、お父さん、スペル、どうなってるかってタカコが言ってるんだけど…」の声が聞こえます。「ス、ス、スペルか〜」と父)

私 ダメね、これは。もう少ししたら、かけなおすわ。拡大レンズかなんかでよく見て、スペルを書き出しておいてちょーだい。

母 わかったわ、そうする。なんだか、ジャムみたいな気もするんだけど…。

私 そうなんじゃないの、きっと。試食するといいわよ。すぐわかるでしょうから。

 結局、それは、「トリュフ入りソース」という貴重品でした。そうとは知らず、(ジャムと思いこみ)、大さじ1杯、いきなり口にしたらしい老父。無知とはオソロシイ、と悟ったものです。試食を命じた私も悪いんですけど…。

 父いわく、「そういえば、犬を連れた人間のイラストがはられてる。トリュフさがしの犬、ということだったんだな」。

 かくして日伊、怒涛のごときひとときがすぎていったのでした。



「イタリアでかわった」の巻
 今も毎日、ケンへのお悔やみレターを拝受し続けています。なんとありがたいことでしょう。みなさんから、こんなにもお気づかいいただいて…と、改めて胸を熱くしています。

 ケンの訃報がキッカケのようになり、久々のお便りをくださったかたも少なくありません。たとえば、札幌在住の久美子さんも、そのおひとり。私の大好きなクローバーのレターセットによるあたたかいお便りをちょうだいしました。そのなかの一文に、なつかしさがよみがえった私。こんなふうに書いてくださったものですから。

――大泣き…と言うと、ケンちゃんエピソードで私のお気に入りは、『イタリアでわかった』の110ページからのジャンピエロの話、137ページからのお泊りの話で、何度読んでも、大泣きしてしまいます。

 ジャンピエロのことは、よーく覚えています。が、「お泊りの話」って、何だっけ? と首をかしげました。『イタリアでわかった』(祥伝社黄金文庫)をめくってみました。「剽悍な猛犬が惚れ込んだ好漢」のタイトルページでした。

 そうか! かつて、ケンを預かってくれたジャーマンシェパード専用ブリーダー、テドルディ氏のストーリーだっけ。チャンピオン犬クラスのみ扱っている彼のところで、特例として、ケンの「お泊り」をお願いしたこと、想い出した私です。

 かなりオソマツな表紙にされ、トホホホ…の一冊ながら、しぶとい支持を得ている『イタリアでわかった』。サブタイトルは「陽気でけっしてクヨクヨしないおしゃれ生活」です。「はじめに」に記した一部を紹介いたします。

 ――人生はたった一度だけ。人間なんかみんな弱くてちっぽけなものなんだから、「みんな友だち」と仲良くやっていこう。明日のことなど誰にも分からないから、今日を楽しく過ごしていこうじゃないか。

 彼らのこういった生き方に日々接してる私は、学んでも学びきれない大切な何かを教わる思いの毎日です(「はじめに」より)。

 今もまた、学び続けている私。『イタリアでかわった』というタイトルのほうがいかったかなー、とも感じています。



「やっぱりトマトソース」の巻
 なにげなく、去年、日本で求めた『現代イタリア情報館』を読んでいました。日伊文化交流協会が監修の一冊です。サブタイトル、「キーワードを世相で読め!」にひかれ、成田空港内の書店で購入したものです。

 あいうえお順にて、イタリアのさまざまなキーワードが登場、簡潔ながら、マトを得て解説されています。

 ふむふむ、「アクア」「アマーロ酒」「エスプレッソ」……そして、「オリーブ油」か〜あ。さすが、世界中での消費となったオリーブオイルなだけに、かなり長めの文面。2ページにわたっているではありませんか。

 読み進めていて、ビックリ! 『やっぱりイタリア』(集英社文庫 タカコ・H・メロジー)によれば…なーんて出てきたのです。

 マ、どーってこと、ないんですけどね。「……によれば、ヘアートリートメントなどの美容効果もある」と記されていただけでした。

 それをいうなら、『イタリア おばあちゃんの倹約の知恵』(中公文庫)のほうを挙げてほしかったですね〜え。オリーブオイルの美容効果について、タップリと書いてますから。

 さらにページをめくっていくと、あ、『イタリア幸福の12か月』(集英社文庫)も登場! 「ジェラート」の項目に紹介されておりました。

 もう、オシマイよね、私の本。そう信じていたら、またもや、『やっぱりイタリア』のお出まし。「トマトソース」のところでした。ただし、「ちょっとな〜あ」というニュアンスでの紹介。できれば、ごくごく正しい「イタリア家庭のトマトソース」レシピを入れてほしかったですね。そうです、トマトとバジル、にんにく、オリーブオイルのみで作る定番のソース。やはり、ダントツのベースなお味、と信じていますから。

 などと書いていたら、今日もトマトソースのパスタにしたくなりました。『やっぱりイタリア』ならぬ、『やっぱりトマトソース』というわけです。



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