プロローグ  ――まずは、ケンに捧ぐ――

 ケンちゃん! 春が来たのよ。あなたの大すきな春が来たの。
 去年の今ごろも、近くの公園や野原をいっしょに歩いたわよね。四つ葉のクローバー、さがし続けたこと、ケンちゃん、覚えてる? すぐに見つからないので、いつまでもさがしていたら、ケンちゃんは飽きちゃった。

 「おかーさん、もう、おウチへ帰ろうよ〜お」

 わざと知らんぷり。四つ葉をさがし続けていると、ケンちゃんの「エスケープごっこ」の始まり、始まり。プチ逃亡されたこと、ずいぶんあったわよね〜え。

 四つ葉を押し葉にしていたら、いっぱいたまって。ケンちゃんの眠っていることころに、ぜんぶ入れたでしょ。だからきっと、無事に「虹の橋」へ行ってくれたと信じてるの。

 読者のかたが、『虹の橋』(作者不明)という詩を教えてくれたのよ。ほんの一部だけ書いてみるわね。

 天国の一歩手前に「虹の橋」と呼ばれる場所がある。
 地上にいる誰かと親しくしていた動物は、死ぬとその「虹の橋」へ行く。
 動物たちは一緒になって走ったり遊んだりすることができる。
 (…中略…)
 病気にかかっていたり、歳をとっていた動物たちは、ここに来て健康と活力を取り戻し…(…後略…)

 そうなんだ。ケンちゃんは、やっと健康を取り戻してくれたんだ。

 「虹の橋」では、たくさんのお友だちができた? みんなと仲良くすごしてる?

 ケンちゃん! ケンちゃんがいなくて、おかーさんは淋しくてたまらないの。今だって、涙が止まらない。どうしてもダメなのよ。

 悲しい、というのともちょっと違うのね。ただただ、淋しくてならないの。

 でもね、淋しいだけの涙じゃないってことに気づき始めたのもたしか。だって、ケンちゃんから、たくさんの楽しい想い出をプレゼントしてもらったんだもの。そのことに感謝してすごさなくっちゃ、ね。

 多くの方々が、ケンちゃんの想い出ばなしを待っていてくれるの。これから、少しずつ紹介させてもらうことにするわね。

 おかーさんはホラ、忘れっぽいでしょ。「わー、想い出せな〜い」ということもあるに決まってる。そしたら、「ケンちゃ〜ん」と声をかけるから、笑って応えてね。

 「ヘヘッ、やだなー、おかーさんたら〜あ。しっかりしてちょーだい!」

 って。いつも私といっしょにいてくれるわよね、ケンちゃん。


旅立った日の朝は、こんなふうに安眠 ケンの他界に届いたミラノ在住の久子さんからの献花
庭に眠ったケンのところに植えたサクランボの木 読者の恵子さんよりのお庭のフォトには「ケン様へ」
ありし日のケン、ごきげんな笑顔 「天使みたい」と言ってもらったかつてのケン

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