第5回
労働組合を支えるものは
さまざまな場面、方法で労働者の生活向上を図ろうと活動を続ける労働組合だが、当然のことながらそれに対しての批判、問題点もある。
「労働組合としては、組合員が増え、組織が大きくなることも大切なことです。しかし組織として大きくなることは、ある意味で個人の生活から離れてしまう現実も孕んでいます。たとえば執行委員の選出を考えた時、執行委員は自分たちのリーダーであり、代弁者なのですから、非常に大切な存在です。その選出に当たっては真剣にならざるを得ないはずなのですが、組合員にとってはいつの間にか執行委員が決定されているという程度の関心しかなくなっている。
組合員でありながら、組合の行事に参加することが面倒になっているんですね。こんなふうにいってはいい過ぎかとも思いますが、"労働者のために存在する組合"から、"執行委員だけで運営する組合"に変化してしまっている。これはとても大きな問題です」。
「昨今、多くの民間企業で成果主義的な賃金制度を導入する動きが始まっています。つまりその人の賃金が仕事の成果としてあげた数字だけで決定される制度です。同じ年次に入社しても、仕事ができるできないで手にする賃金に格差が発生します。同じ入社年次なのに、Aさんは20万円、Bさんは仕事で成果を上げているので30万円の賃金を取っている。理屈としては理解できますが、これではこの職場には仲間意識なんて生まれないですよね。
企業は利益追求が第一義ですから職場における円満な人間関係よりも、高い利益率を求め、それを実現する体制を作るでしょう。しかし、私たちは機械ではない。効率だけを考えた殺伐とした職場では精神的に参ってしまうと思いませんか。今、多くの職場でメンタルヘルスの必要性が叫ばれていますが、まさにこうした結果といってよいと思います。
みんなが貧しかった1930年のころ、会社の仕事よりも労働運動にウェイトを置く人たちがいました。つまり、労働組合を通じて職場の民主化や政治の変革などを通して働く人々の権利や労働条件向上を勝ち取ることに情熱というか、ロマンというか、労働運動を通じて自分を高めていこうという選択をした人たちがいたんです。実は、そういう人たちがこれまでの労働組合を支えてきたといってよいと思います。しかし、最近はそんなことをしたら職場でははじかれてしまいますし、将来の昇進も危ぶまれるという中で、かつてのように労働運動に熱中することは得にならないといった考え方が支配的になっているのは確かです。損か得かというだけでは律しきれないのですが、企業のなかで労働組合のあり様が変化してきていることも根底にあると考えています。
グローバル化とか激しい競争のもとで、労働組合が組合員の連帯をどう再構築していくかが大きな課題といえるでしょうね。
いままで触れることができずにいたが、今回お話をしてくれた佐藤晴之氏は、とても温厚な、そしてどこにでもいるごくごく普通のオジサンといった風貌の方である。組合の基本に"闘って権利を勝ち取る"ことであるが、一見“闘う”なんて言葉とは無縁な感じさえする。
「私は組合の仕事に携わって26年にもなりますが、人間が好きな人は、組合の活動に向いていると思いますね。結局、組合の活動は、人の手によって支えられているのです。人が財産のはずです。仕事は人がするものなのです。それを理解せずに成果賃金制度を導入して、結局うまくいかず、その制度を廃止した会社もすでにあります。それが現実なんです。それでもまだ、今後成果賃金制度を導入しようと検討している会社が多いことも事実です。
人間は機械ではないし、独りでは生きられない。そのことをもっと真剣に考えて欲しいですね。そうすれば今のヘンな個人主義の考え方は変わっていくと思います。一人ひとりが誰に頼ることもなく自分の足で歩くことが必要なんです。自分の足で立てない人間が、隣の人に手を貸せるわけはないですよね。
今までの組合員の多くは、手を貸してもらうことだけを組合に求めていた。そして彼らに対して、本来の精神や活動を伝えきることができなかったユニオンリーダーがあった。双方に責任はあるのです。確かに、組合に加入している人は全労働者数に対して5人に1人という低い数字であり、一般の組合員の意識も以前の前向きな姿勢は見られず、労働組合の状態はよくない。でも、だからといってこのままではいけないのです。
協力し合い、助け合うことが組合なのですから、社会状況や個人の価値観の変化に対応しながら組合の形は変わっていくでのしょう。
それでも基本理念である"権利の主張と権利を守ること"。このことは変わってはいけないことだし、主張し続けなければいけないことだと思っています」。
完
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