第3回 責任の重さ

中川さんにインタビューをしながら、背筋が寒くなる思いがした。
彼女の話に登場する親の姿は、自分のことしか考えない大人ばかりである。

「私が勤める保育園は、朝7時から夕方18時30分まで、子供たちを預かっています。もちろん基本的には、働いているお母さん達のための子供を預ける場ですから、その保育時間が長くなることは仕方のないことです。
でも、子供って突発的に発熱しますでしょ。平熱以上になったら、お母さんに連絡して迎えに来てもらう事になっているんです。それで、おかあさんの職場に電話を入れますよね。すると、『今日はお休みされてますが…』という答えが返ってくることがしばしばあります。
親の責任ってなんだろう…と感じることがすごく多いですね」。

「私が新卒で幼稚園に就職して、4年で辞めた理由は、この仕事の責任の重さがしんどくなったためでした。ある日、遊具で遊ばせていた時に、目の前で子供が落ちたんです。幸い、遊具の外側に落ちたので、頭を切っただけで済みましたが、それでも7針を縫う大ケガでした。その時は、他の子供に押されたりとか、悪ふざけをしていたとかと言うことではなく、単純にその子がバランスを崩したんです。ですから、防ぎようのない事故ではあったのですが、これはショックでした。人様の大切なお子さんを預かっているのに…。でも、どうしようもない事故は起きるし…。と落ち込みました。
この時、私ひとりで30人の子供を受け持っていたんです。30人の子供たちに『お庭で遊びましょう!』と言いますでしょ。もう、言ったとたんに、まるでツルツルの床に上にパチンコ玉をこぼしたように、あっという間に30の方向に散らばるんですよ。それをひとりで、すべて監督して、絶対にケガをさせないなんて、そんなことは不可能です。そう思ったら、もう恐くて仕事を続けられなくなっていましたね」。

「幼稚園や保育園の先生の仕事って、すごくお気楽に見られているんです。子供たちのお昼寝の時間には、先生達も一緒にお昼寝してるんだろうって、良く言われますもの。
とんでもない話です。子供がお昼寝している時に、その日に子供が帰る時に渡す連絡帳を受け持っている子供30人分全部書くんです。
お昼の食事だって、子供と一緒に『いただきます』をして、面倒をみながらですから、実質私の食事時間は毎日、5分か10分です。
正式に認定されているわけではありませんが、この仕事に多い職業病って、分かりますか? 膀胱炎と腰痛なんです。ひとりで担任していると、子供から片時も目を離せないから、トイレにもいかれないのが現状ですし、たくさんの子供を抱きますから、腰への負担が大きいんです。乳児のクラスを受け持っている時は、腰をカバーするベルトは必需品です。
子供たちが帰った後は、いろいろな行事の用意をしなければなりません。夏休みの時期にはすでに、クリスマスの準備を始めないと間に合わないんです。そういった意味では、本当に身を削って仕事していますね」。

「それでも、相手は子供です。手を抜こうと思えばいくらでもラクはできますよ。お母さん達の対応だって、お母さん達の言うことを聞いていれば、何の問題も起きない。問題が起きなければラクなものです。
でも、子供のことを考えて、真剣に取り組めば問題は山積の状態です。行事の準備だってラクに済ませることもできるし、一生懸命に自分に使える時間のほとんどをあてて取り組むこともできる。
真剣に、そして一生懸命になればなるほど、大変なことばかりです。時々、なんでこんなことしているんだろう…?って思いますもの」。

「それでも、子供が成長する姿を目の当たりにすると、嫌なことのすべてが吹っ飛んでしまうくらいうれしいんですよね」。


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