第3回●オヤジは「無理だね!!」と言うけれど
■現在小沢さんは鴨川の土地に自分の手で家を建てています。家を作るのはさすがの小沢さんも初体験。わからないこと、知らないことだらけなのだそうです。しかも小沢さん、鉄筋コンクリートの家を作ろうとしています。おまけに土建屋のおじさんたちもよく知らないような新しい工法で。むろん、そう簡単には進まないようです。
でも小沢さんは「だれもやってないことを、知恵をしぼりアイデアを駆使してやってみるのがいいんだよ」と実に楽しげです。
「住居でもあり、作品のつもりでもあるから…」。傍らの奥さんの方は、このチャレンジに少し困りながらの笑顔です。
」 」 」 」 」
「こんなもんでコンクリが打てるわけねえっぺよー」。30mほどのくねくねと伸びたネットの壁を蹴っとばして土建屋のオヤジが笑った。 午後から生コン車がやって来て、弱々しいネットにおそるおそる生コンを流し込んだ。ソファーの背もたれのようにフワフワと膨らんだ1m×30mほどの壁は無事完成した。
URC工法による鉄筋コンクリートの試し打ちだ。URC工法。私はネット打ち工法と呼んでいる。建築家、海野健三氏発案のこの工法は、鉄筋をマス目に組み、その両側にネットを固定して、その内側にコンクリートを流し込んで固めるというものだ。こう説明するとRC(鉄筋コンクリート)工法についてちょっと知識のある人は「そんな馬鹿な。コンパネで押さえたって壊れるほどコンクリは重たいんだ。ネットなんかじゃ無理だね!!」。だけど庭に打ってみた高さ1m×長さ30mの壁は今、しっかり土を留め、四季折々の花を咲かせている。
でも、やはり本番の家では大きい失敗は許されない。デザインは壁の強度の一番強い曲線を多用した構造にすることにした。そして足場など余分な物をなるべく必要としないで、しかも一人だけで作ることが出来る家…。何度も設計図をかいて8m×24m、高さ5mの家のデザインは完成した。しかし、設計と施工はまた別物だ。
幸せなことに隣の宅地ではひと足先に、設備業の社長をリタイアした人が、やはり自力で在来工法(木造軸組工法)の家づくりをしている。河野さんという人だ。河野さんから色んな道具の使い方などを教えてもらい、なんとか5ヶ月ほどが過ぎた。
夏の暑さも、秋の長雨も終わり、初冬の陽光がやさしい。向かいの山でサルが木枝を揺らして騒いでいる。この間まで緑一色だった山並みもすっかり冬支度の風情。すべてが休まず変化していく。53歳の肉体もこの半年ばかりで力強く目覚めている。
「あれよー、えらい出来たねえ。いいねえ若い人等はさあ。ワタシらももう少し若けりゃ自分で家作ってみたかったよー。だけど余裕ないとなかなか出来ないよー。明日のメシのこと考えたんじゃねー」。松川老夫婦が、三脚の上で梁を組んでいる私の足元で微笑んでいる。房総半島の人たちは皆、屈託がない。
近所の人が時々見物にやって来る。「ウーン、素人がこんな家作るのも不思議なもんだが、どうやってメシ食っているんだか、サラリーマンの俺にはそっちの方がもっと不思議だよ」。
そう。私も今こうして自分が暮らしていられるのがとても不思議です。こんな時が訪れようなどとは数年前には考えられなかった。これも仕事を出してくれている友人や、多くの人々に支えられてのことだろう。皆さん、ありがとう。家が出来たらまた楽しいイラストを描こう。
(c) Kazuo Ozawa
「Confeito」に掲載の記事・写真などの無断転載を禁止します。
すべての著作権は(有)アルティスタと著者に帰属します。
転載を希望される場合は、 当編集部までメールでご連絡ください。