第2回●ペンネームどれにしますか?
■小沢さんはさまざまなスタイルでイラストを制作します。作風が多様なのでペンネームもいくつか使っています。ハタからは変幻自在の不思議な存在にも見えます。
――イラストレーターの作品は世の中に送り出されてたくさんの人たちに楽しんでもらうもの。世の中というのはどんどん変化する。その時々に人に何かを感じてもらえるものを作るのに、こちらが変化するのは当たり前。どんどん色んなことをやっていく――ご当人はそんなふうに考えているようです。
」 」 」 」 」
「有名になりたいんです」。
アシスタントを募集したところ、やって来た若者は言います。
28歳までグラフィックデザイナー。銀座のデザイン会社で働き、帰りはいつも終電車。もう止めた、そろそろイラストレーターになる!! 「お前がイラストレーターになれるんだったら誰にでもなれるよ」。電通のディレクター氏が言います。すでに結婚してました。それほどの才能もない、はじめるのも遅い。私のイラストレーター人生はハンディだらけのスタートでした。
「そんなに有名になりたいなら銀行強盗でもしな!!」。
35歳から45歳までの間、アシスタントを雇いました。雇うと言っても私の知ってることは何でも教えた「学校」みたいなものでもありました。
出入りしたアシスタント10名。学校で甘やかされてきた若者たちの頭の中は作家志望。私の考えではイラストレーターは多くの人に喜んでもらうサービス業、広告制作の最後に登場する視覚担当。日々変化する社会の流行に合わせて変化していかねばなりません。
「小沢さんいろいろやってますが、自分ではどれが一番好きなんですか?」と聞かれることがあります。もしあなたに子供が5人出来たとする、どの子が一番好きかと聞かれたらどうしますか。困りますよね。私もです。どれも皆好きに決まってます。楽しんで作ったんですから!!
現在、イラスト「小沢学校」の生徒たちは、この不況の中それぞれ元気にやってます。
「もしもし、この間のイラストのペンネームどうしますか?」
同一クライアントの違う仕事のために描いたイラストのペンネームを確認する電話です。一人の作家は一つのスタイルが常識となっているこの世界で、たくさんのスタイルで描く場合にはペンネームもたくさん必要となります。私の考えでは作家と作品とは別で、作品は完成された時点で一人歩きするもの。親は親、子は子です。ペンネームは何であれ、ただこれからもたくさんの人たちの楽しめる新たな興味に向かって制作したいと思います。
今の私は、何の苦もなく自分の思う表現が出来ます。イラストレーターとしてスタートしたばかりの頃、友人のデザイナーから依頼されたイラストを3度描き直したことがありました。3度目のイラストを見ながら申しわけなさそうに彼が言いました。「他の人に頼むよ、悪いね」。この会社のドアを出て近くの公園のベンチで気分転換、新緑の木立の上に青空が広がり5月のさわやかな風が吹き抜けていきました。徹夜明けのやつれた頬に涙がつたいます。どれほどの努力をしても当時は求められられるだけの表現力がありませんでした。
あの日から何千点ものイラストを描きました。現在、長く続く不況の中で仕事は激減しました。でも、依頼なしでも描きたいイラストはたくさんあります。今、鴨川に家を作っていますが、その一部にギャラリースペースも作っています。山積みしたままのイラストに光をあててやりたいのです。
(c) Kazuo Ozawa
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