50歳以後の人生はおまけ――ずっとそう思っていた。
バブル経済のおかげで朝から晩までイラスト、イラスト。眠る時間が1日2、3時間という多忙な日々が続きました。子供の頃からの絵描きになりたいという夢が叶ったのです。幸福な日々でした。来るものは拒まず!! どんな仕事も断ることなく描き続けました。
周囲にはソツなく器用にこなすイラストレーターと見えたのでしょうが、実は「アヒルの水かき」。スイスイ泳いでいるように見えても水面下では必死で足を動かし続けるイラスト人生。どんなに楽しくとも20年もやっていると飽きもしようというものです。
丁度こちらの事情に合わせるかのようにバブルは崩壊。広告業界のお祭り騒ぎも年毎に下火となり、これは一大チャンス。次なるステージ捜しに出発したのです。
関東周辺の土地を、情報誌を頼りに女房と共に不動産屋回りです。思った物件は無く疲れ切った頃に千葉県の鴨川に500坪の土地を見つけました。「サルと鹿が出没します。それにマムシも…」。営業部長は肝心のテレビが映らないということは最後まで言わなかった。
道が出来、水道が引けるまでそれから1年余。家づくりの工事に着工できたのは2000年7月。この家は全部手作り、建坪50坪、鉄筋コンクリートURC工法(*)の家です。
*URC工法 建築家の海野健三氏が発案した鉄筋コンクリートの新しい
工法。Uは海野氏のイニシャル、RCは鉄筋コンクリート(Reinforced
Concrete)のことです。
先ずは整地。
「このハンドルが前後、こっちが左右、ってまあ女の操縦より簡単だっぺよー。ヘッヘッヘッ」。ユンボを貸してくれた土建屋のオヤジはサッサと行ってしまいます。U字溝や排水・水道管の設置、ベタ基礎のための鉄筋組、何もかもが未経験。流れ落ちる汗、真夏の太陽で全身真っ黒、20年も休んでいた肉体のあちこちが悲鳴をあげる。一人だけの力でどこまでやれるか、持てる知恵と腕力のすべてを使っての挑戦です。
「素人に鉄筋の家なんかできねえっぺよー」。当初はそんなふうに言っていた近くで作業する土建屋のオヤジも最近は、ビーサン、短パン、サングラスで作業している私にあきれ顔。無言です。
「家出来たぁ? あっそう、仕事頼みたいんだけど、ちょっと来てよ」。何本かの定期的な表紙イラストと忘れた頃に仕事を出してくれるとてもありがたい友人からの電話です。女房は嬉しそうにウィンドーショッピングの計画です。東京の家は3年前にすでに売却していますから当然日帰り、2歳になる愛犬「コマ」と一緒にドライブです。御宿から東京までは日中で3時間位です。東京の街は時々会える昔の恋人、懐かしくちょっとドキドキです。
「あー疲れた、東京はたくさん歩くから大変!! ホラこの長グツ買っちゃった」。幸せそうな女房を乗せて星空の下を帰ります。
(c) Kazuo Ozawa
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