プロローグ●南房総に移住。隠居説流れる

Confeito編集部に、ある日1通の葉書が届きました。
「千葉に引越しました」。住所をよく見てみると千葉県夷隅郡御宿町と記されています。千葉は千葉でも南房総の方、都心部からはちょっとばかり離れたところです。何だか「鴨川市の500坪の土地に家、ギャラリーを手作り中です」というコメントも添えられています。
その転居の知らせは、イラストレーターの小沢和夫さんからのものでした。我々は小沢さんに対して、第一線でバリバリ活躍するイラストレーター、という認識を持っていました。実際、大手広告代理店や出版社の仕事も多数なさってきた方です。
「あの小沢さんが何で御宿? 鴨川の家って何?」ということになり、我々はさまざまな憶測をしてみました。
「そう言えばむかし飲みに連れていってもらった時、早めに隠居したいようなこと言って気がする。もう充分稼いで田舎暮らし始めちゃったとか」。
「まだ50歳ぐらいでしょ(ちなみに小沢さんは1947年生まれ)」。
「土地500坪か。家に大きなアトリエ作って自分のやりたい作品づくりに専念するとか。ギャラリーってのも大きいのかな。小沢ミュージアム…」。

葉書をもらってから少し時間が経ってしまったのですが、やはりその動向が気になり、先日御宿に小沢さんを訪ねてみました。
「何で東京を離れてこっちに来たか? 理由は単純。飽きない人生を送ろうと思うから。 “変化”をつけるために環境の違う新しい場所で新しい生活をしてみようと考えた。イラストレーターが自分の毎日に飽きてしまっていては新鮮な、いい作品も出来ないと思ってるんです。隠居じゃないよ」。
率直に疑問をぶつけてみるとそんな応えが返ってきました。
「鴨川の家は、自分が生涯の中で作る最大の作品というつもりで取り組んでる。僕はこれまで机の上、室内で作る言わば小さな作品しかやったことがなかった。鴨川の土地を得て、一生に一度自分の肉体を思い切り使って作る大きなものをやってみようと思ったんです。こんなものが作れる機会はもう2度とないんじゃないかってね。当初、建築をお願いするつもりだった大工さんには本当に申し訳なかったけどお断りして」。
小沢さんの作品というのは実に多彩です。平面だけでなく立体イラストもあります。小沢さんは一定のスタイルにこだわらず、さまざまなタッチ、手法を使っていつも新たな表現に挑んできました。“鴨川の手作りの家”はそんな小沢さんの一つの挑戦だったのです。
ちなみに御宿の現在の住居はリゾートマンション。鴨川の家が完成するまではとりあえずここが拠点ということのようです。

長い前文となりましたが12月のこのコラムは、これまでとは少しスタイルを変えて、小沢さんご自身に寄稿していただいた文章を紹介します。新しい生活、仕事、 制作中の“家”のことなど4回に渡って書いていただきました。