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第3幕 「師匠・ダーク大和」
ダーク大和のステージに大きく心を動かされたダーク広和氏は、内弟子として弟子入りをした。
「内弟子って、結構大変なんですよ。師匠と365日寝食を供にするわけですから、休みなんてないんです。当時1年で3日だけでした、休日って。たまに、師匠が夜遊びに出ますでしょう。夜中の1時を過ぎると確実にその日は帰ってこないんです。だからそれから朝までが僕達の休みです。そりゃ嬉しかったですよ、そんな時は。夜中の1時を過ぎているというのに、それから遊びに行くんです。だってそんな日に遊んでおかないと次はいつ、自由な時間が取れるか解らないわけですから」。
「ある時、僕が大失敗をしたんです。ステージ用の衣装、靴、手品の仕掛けなど用意するのは僕の仕事で、地方の子供会かなんかの仕事だったのですが、いざ現場について車のトランクを開けたら、何も積んでいなかったんです。空っぽ…。
さすがに青ざめましたね。僕の頭も空っぽになった…。でもとにかく、師匠に報告して誤らなきゃと思って、師匠のところに行ったんです。
そしたら師匠は、怒るより先に、バケツ、新聞紙、割り箸にストローなんていうどこにでもあるものを次から次に挙げて、揃えさせたんです。それで結果、1時間半、たっぷりショーを披露しました。上手い喋りとともに。お客さんたちは大喜びで受けていましたよ。
それを見てあらためて、師匠の偉大さを痛感しました。その時に師匠がやったバケツを使った手品は、今でも僕の好きな手品のひとつで、先日の20周年の舞台でもやりました」。
このバケツを使った手品は、ダーク広和氏の温かい人柄そのもののようなほのぼのとした実に素敵な作品である。会場の子供を舞台に上げ、協力してもらって展開する。
空中の何もないところの空気を子供がぎゅっと握る。そしてバケツに投げ込む。空気を掴んでいるはずなのに、“カラーン”とコインがバケツに入る音が響く。手の中には何もなかったはずなのに、バケツに入れると音がするので、その子はちょっとびっくり!
面白くなった子供は、ダーク広和氏に言われるままに、ジャンプしたり、走ったりして、舞台のあちこちの空気を取りにいく。
ダーク広和氏と子供がふたりで楽しく遊んでいるかのような、ほほえましい様子に見ている会場の観客達もやさしい気持ちになってくる。
「あの手品は、こちらが子供を動かすことがポイントなんです。師匠はそういうことが実に上手かったですからね」。
そういうダーク広和氏もステージでは、なんの不自然さもなく子供と一緒になって楽しんでいるように見えた。
「師匠は、弟子を本当にかわいがってくれた人だと思います。弟子のそれぞれの個性を見極めて、どんなタイプの手品があっているかを考えてくれました。ですから、同じダーク大和の弟子といっても、出し物が重なったりしないんです。
普通弟子は師匠の世話が主で、師匠に教え、育てていただくなんて事は、期待できないものです。でもうちの師匠は違いました。本当に感謝しています」。
後にダーク大和氏が病に倒れた時も、彼は師匠から離れなかった。毎日自宅と病院を往復し、看病に明け暮れた。ダーク広和氏がまだ22、3才の頃だと言う。
「正直なところ、これから先自分はどうなっていくんだろうと不安にはなりましたが、でも師匠から離れることは考えませんでしたね」。
20そこそこの若い男性が、自分の仕事の展望がまったく予測がつかなくなっても、自分の事を考えるよりも他人のことを優先できるものだろうか。その若さでありながら、病床についた師匠の看病を何の迷いもなく続けた彼の心の大きさには圧倒されるものを感じた。
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