第5回●「夢…は20年です」

飲食業に携わる人たちのほとんどが「夢は自分のお店をもつことです」という。それを考えると内田氏は若干33歳で、しかも銀座という最高の場所で自分の城を実現した。

夢を持たないで毎日生きることはとても寂しいことだけれど、その夢を叶えることが出来たなら、その次は何を求めるのだろうか。
夢は店を持つことだけれど、実際に夢を叶えて店を持ったら、その夢が現実になる。現実というのはかなり厳しいこと。追っているうちは輝いているが、それを手中に収めるとどうなるのだろう。
かなり意地の悪い質問だが、内田氏にぶつけた。
「これからの内田さんの夢って、何ですか?」

「夢…は20年ですね」 20年!?
「この店を20年間、続けたいです。銀座では10年経ってやっとお店をやっているって認知されるんです。だから私の店なんかまだまだです。20年は頑張りたいですね」。

「自分の店を持つということは、私が経営者ですよね。世間の経営者の立場にいる方々は、いかに売り上げを上げるかを考えます。バーテンダー仲間にも、高い売り上げを上げた人間が勝ちだと言い切る人もいます。でも、私はそうは思わない。正直、売り上げを上げる方法はいくつもあります。でもそれは私がやりたい店ではないのです。
“趣味はお酒”みたいな部分もありますし、私のストレスの解消法はお酒を買うことです。だから店の営業のスタイルも趣味の延長のように感じる方もいるかもしれません。でも好きなもの、好きな分野を仕事に選ぶということはそういうことだと思います。反面、単純に趣味として楽しむことが出来なくなって、ちょっと哀しいですが。だからこそ、自分で納得できる営業のスタイルで20年。頑張りたいんです」。

彼はまだ33歳。20年経っても53歳。バーテンダーさんとしては最高にステキな年齢の頃のはずだ。

「20年経って、53歳くらいになったらイタリアに行きたいんです。イタリアでおいしいワインを飲みながら、生ハムなんかつまんで。いいと思いませんか。
確かにバーテンダーという仕事は年齢を重ねれば重ねたなりに味の出る仕事かも知れません。でもそれだけでは私の人生そのものがちょっと寂しい気がしませんか? 53歳くらいまで一生懸命働いて、イタリアで隠居するんです。なかなかいいでしょ」
頭の中にはお酒のことしかないのかと感じていた。お酒は彼にとって最高の価値を持つものだと。だが、そういうわけでもなかった。自分の人生を、自分の価値観で判断し、それを体現する。

彼の言葉から、ゴールに向ってひたひた、ひたひた静かに静かに走りつづけるマラソンランナーのようなそんな強さを感じた。そういう根本の強さがあるからこそ叶えた夢を守って育てることを続けられる。
自分の思うことを現実に体現して生きることは、受身だけの人生の何倍もの幸せがある。しかし、その反面その幸せとまったく同じ大きさのとしんどさが隠れていることを教えられた。

お店のご紹介
BAR TALISKER(バー タリスカー)
東京都中央区銀座7-5-12 藤平ビルB1F
Tel:03-3571-1753
営業時間 月〜金曜日 18:00〜2:00
     土曜日   18:00〜23:30