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三段目 きれいであること
「着物を着ているときと、洋服のときでは動き方が違うんです。着物なのに洋服のように歩いてしまうと着崩れてしまい、どうしようもないのです。最初の頃は自分の着物の裾を踏んでしまったりすごかったですよ」
着物が着たくて芸者の世界に入ったやよい姉さん。しかしその着物で自由に動けるようになるまでには、1年以上の時間がかかったという。洋服の場合では思いもつかないことが着物を着ている場合にはご法度だったりすることもいくつもある。
「着物の場合、腕が見えてしまうことはとても恥かしいことです。洋服では考えられませんよね。着物ではダメなんです。手首から5センチくらい上までがギリギリです。
物を取るときに袖口を押さえるでしょう。あの動作は袂を汚さないようにするためでもあり、腕が必要以上に露出しないためでもあります。だから自然に手を伸ばして届かないものは取りません。立ち上がって近くまで歩いて行って取ります。
テーブルに肘をつくことも厳禁です。肘をついてしまうと自然に着物の袖口が肘のほうに下がってしまい、腕が見えてしまうから。
つまり、着物を着ていて本来、隠れているべき部分が見えてしまうことがとにかく恥かしいことです。
それから、着物を着ているときは後ろ姿に神経を使います。
歩いているときは背筋がきちんと伸びているか、お座敷で立つ時は、踵をピッタリつけて足を揃えて立たないとふくらはぎくらいまで見えてしまう。
こういうことは本当に細かいことで、些細なことなのですが、これができないときれいに見えないのです。たとえ、どんなに上等な着物を着ていたとしても」。
着物の選び方も大切なこと。着物が好きで7年も着物が中心の生活を続けているやよい姉さんも実はまだ、一人では新しい着物を選ばないと言う。
「個人的な趣味は、渋い着物が好き。色とか、柄とか。でもまだそういう渋い着物は年齢的に合わなくて着られません。着物の良し悪しを見極める眼もまだ自信がないので、大きいお姉さんやお母さんと一緒に買いに行くんですよ。
最初の頃は、ピンクや黄色の着物を選ばれると、この着物はいったい誰が着るの?! なんて思っていたのですが、でもお座敷では選んでもらった着物がいいんです。私がいいなと思ったものよりも。最近は少しずつ好きなものや、私の年齢に相応なものを自分で選べるようになってきましたから、それは嬉しいことですね」
「それでも、渋い着物が好きなんです。遊びに行くときは、自分の気に入っている渋めの着物を着て出掛ける事もあるのですが、そういう時は決まって、またそんな着物着て! なんて言われますけど」
着物の場合、基本的には宝石も香水もご法度。しかし最近では宝石を着け、香水を使っている人も少なくない。
「和の着物に、洋の香水は合わないと思うから私は使いません。匂い袋も持っていません。たんすの中に入れているくらいです。だって、お座敷ってお客様がお食事をする場所ですから、食事の場には香りは邪魔なだけでしょう。でもこんなことは日常生活であたりまえのことですよね」
「きれいでありたいという気持ちを表現することは、日常の基本的なことをきちんとすることだと思いますね。たとえば、毎日着物を気持ちよく着るためにしていることがひとつあるんです。それはアイロンがけ。なんでもない普通のことでしょう。使う紐の1本1本にもすべてアイロンをかけて置くと、シャッキっと着られるんです。アイロンがかけられなかった日は、なんとなく背筋も伸びていないような気がして」
まだ20代で、若く、なんとなくふわふわとしているようなやよい姉さんの美意識の高さと意志の強さが伝わってきた言葉だった。
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