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Chapter 2 髪に手を加えることの意味
村瀬さんの美容室の名前は『バトー・ラヴォワール(Le Bateau Lavoir)』という。和訳すると“洗濯船”。
「ピカソの最初のアトリエの名前です。ピカソの本を読んだ時に知ったんですが、そのアトリエには、いろいろな人たちが訪れて、夢や理想を語り合っていたんですね。で、訪れた人たちはそこで語り合うことによってお互いに“力”を養い、それぞれ理想に向かい、夢をつかんでいった。それにあやかりたいなと思ってつけたんです。そういう場所であったらと」。
美容室を訪れる人がどんな状態で来ても、帰る時には笑顔にさせられるだけの技量。美容師たる者これがなければと村瀬さんは考えている。
「美容技術って目的じゃあない。方法なんですね。何が大切なのかって言ったら、やっぱり、その人の生きる糧みたいなものをつくってあげることじゃないですか。感動だったり、喜びだったりとか。そこまで含めて、僕は美容師の技量だと思います」。
村瀬さんは、自分は人の人生の中のヘアスタイルという部分での手伝いをしているのだという。
「ヘアスタイルって美容師が手を加えたからヘアスタイルではないと思うんです。
生活の中の衣食住を考えた時に、たとえば家って生きるうえに必要なものだけあればいいわけじゃないですか。でも人間ってそれだけだと、人生をおくる中で気持ちを切り替えたり、明日への元気をつくったりすることが出来ないから、そこに絵や花を飾ってみたり、インテリアの色を工夫してみたりして心の豊かさをつくっていく。
ヘアスタイルもそういうものだと思うんです。髪の毛は生体ということだけで考えたら、頭を守るものでしょ。それにデザインをして手を加えるってことは、それはその人の気持ちをつくっていくことだと思う。だから本来、ヘアスタイルってその人がいないと成り立たない。へアスタイルはその人とともにある。
僕らはその気持ちをつくるための作業を、美容技術をもって、サポートしているわけです」。
『バトー・ラヴォワール』にやって来る人たちは、年齢、趣味嗜好など様々だ。50歳代の叔母様から若い学生、妻に連れて来られて通うようになった男性などもいる。
村瀬さんはどんなスタイルでもつくる。モード系、コンサバティブ、ドレッドヘアに坊主頭も。
「どの系統が得意かと聞かれると困るんです。カタチなんて何でもあり。ただ、ヘアスタイルはその人とともに、ですから、僕はその人その人に合うものをつくっていくんです」。
スタイルの系統や名前などは、わかりやすい標識みたいなもので、村瀬さんにとって、あくまでその人の要望を理解する一つの参考なのである。
「何より大事なのは、なぜそのスタイルなのかとか、そのスタイルに何を求めているのかとか、そのお客さんの気持ちです。それをわかってからでないとハサミは入れられない。何となくそのカタチだけをつくっても違和感が残る。お客さんの気持ちを満たすことはできません」。
村瀬さんという美容師は、カタチの概念を超えたところで仕事をしている。
「美容師それぞれで、仕事に達成感とか納得とかを感じるところは違うのだと思いますけど、僕がこの仕事をしていて、よし、と感じられるのは、ヘアスタイルというものを通じて、その人の気持ちに自分が届くことができた時ですね。
癒してあげなきゃならない時には癒すことができて、元気づけてあげなきゃいけない時には元気づけることができて、磨かなきゃいけない時には磨いてあげて、ストレスがあって重たいものを取り除きたい時には重たいものをとってあげられて…。
心を充実させていってもらえればと思うんですよ。そしてまた次に頑張る力を湧かせてもらえればと。ピカソのアトリエを訪れた人たちみたいに…」。
――次週Chapter3へ続く
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